佐藤友樹先生が毎月テーマに沿った本をご紹介する「オトナも読みたい!今月の本」。
6月は、父の日にちなんで、父親が印象的な作品を4冊、ご紹介します。
父の日に読みたい!父親が印象的な作品4選
- 『あいたくなっちまったよ』きむらゆういち=作/竹内通雅=絵(ポプラ社)
- 『おとうさんの手』まはら三桃=作/長谷川義史=絵 (講談社)
- 『大草原の小さな家』ローラ・インガルス・ワイルダー/作(講談社)
- 『キッドナップツアー』角田光代=作(新潮文庫)
『あいたくなっちまったよ』
きむらゆういち=作/竹内通雅=絵 (ポプラ社)
幼児から大人まで
どんなことをしても子どもを守る父
登場するのは、やまねこの親子とねずみの親子。
「とうちゃんって、すごいよね」と言ってくれる息子のことを思い出しながら、やまねこは家へと帰るところでしたが、途中でねずみの子を見つけました。これはもうけものと舌なめずりして近づき、つかまえようとしましたが、子ねずみは「ぼくのとうちゃんがゆるさないぞ」と言うのです。
そして、そこに現れたのは、見るからに弱そうなお父さんねずみ。怖いやまねこを目の前にして、ぶるぶる震えながらも息子を必死で守ろうとするのです。そのお父さんねずみの姿に、同じ父であるやまねこの気持ちが揺れ動きます。
【作者】―きむらゆういち(1944~ )東京都生まれ。多摩美術大学卒業。造形教育の指導、テレビ幼児番組のアイディアブレーンなどを経て、絵本・童話作家に。『あらしのよるに』(講談社)で講談社出版文化賞絵本賞、産経児童出版文化賞、JR賞受賞。全7巻のシリーズとなった同作品は映画化、アニメ化もされ「日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞」を受賞。絵本・童話創作に加え、戯曲やコミックの原作・小説など広く活躍中。著書は600冊を超え、国内外の子どもたちに読み継がれている。
『おとうさんの手』
まはら三桃=作/長谷川義史=絵 (講談社)
低学年から大人まで
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おとうさんの手から伝わってくる心の中
目の見えないおとうさんと少女の話。
お父さんは、音やにおいからいろいろなことを感じ、なんでもわかってしまいます。娘のかおりちゃんの今日の給食がなんだったのかも、ぴたりと当ててしまうのです。そして、お父さんの手は魔法の手です。体をさわって、手の感覚だけで鍼を打つ治療もします。ほんとうに不思議でした。そのやさしいおとうさんの手をそっととって胸にだくと、心にじいんと伝わってくるものがあります。
短い低学年向けの話ですが、長谷川義史さんの絵もじつにすばらしい。対になる作品として「おかあさんの手」もあります。
【作者】-まはら三桃(1966~ )福岡県北九州市生まれ。2005年「オールドモーブな夜だから」で講談社児童文学新人賞佳作となり、翌年『カラフルな闇』と改題し刊行。『鉄のしぶきがはねる』で2011年度坪田譲治文学賞、第4回JBBY賞を受賞。他『たまごを持つように』『伝説のエンドー君』など多数。中学入試によく使われる作家でもある。『おとうさんの手』は2011年読書感想画中央コンクルール課題図書に選定された。福岡県福岡市在住。
『大草原の小さな家』
ローラ・インガルス・ワイルダー/作 (講談社)
中学年から大人まで
お父さんの膝の上が一番好きな場所
アメリカの大草原、町もなく、広大な森の中に小さな家が一軒だけ。そこに住んでいるのは、インガルス一家。両親と三人の娘たちが暮らしています。
家の外にはオオカミやクマなど恐ろしい動物もいます。それでも、家族は楽しそう。強くて優しいお父さんがいて、料理上手のお母さんと元気いっぱいの子どもたちもいて、たがいに支え合いながら生きているのです。
この作品の中心的な視点は、作者とおぼしきローラという少女ですが、一家を守る父親の姿が、とても魅力的。狩りから帰ってくるお父さんの膝の上で聞く、森の中の話がまた楽しいのです。
【監修】-ローラ・インガルス・ワイルダー(1867~1957)作家。小学校教師。幼年期の体験に基づいた子どものための家族史小説シリーズ『インガルス一家の物語』が、世界的なベストセラーになる。アメリカで『大草原の小さな家』としてテレビ化され、日本でもNHK総合テレビにて放映された。ここで取り上げた本はシリーズ一作目。作者が生まれたウィスコンシン州北西部にある、大きな森の小さな家へ移住した1年間の生活が描かれている。
『キッドナップツアー』
角田光代=作 (新潮文庫)
高学年から大人まで
ダメなおとうさんとばかり思っていた……
「キッドナップ」とは、子どもを誘拐すること。
主人公の「私」は、小学5年生の夏休みの一日目、母と別居中の父親の車にさそわれるまま乗りこんで、しぶしぶ「誘拐」されることになります。
「私」にとって、父親は、だらしなく、情けない大人でしかありませんでした。それが、夏休みに父親に連れられるままに、いろいろな場所に行き、一緒に過ごしているうちに、これまで知らなかった父親のことに気づき、しだいに心を通わせていくことになります。
やがて、お父さんの資金もなくなり、いよいよ「誘拐の旅」も終わりになります。別れるとき、「私」は、「またゆうかいして」と言ってしまうのです。
【作者】-角田光代(1967~ )小説家。神奈川県横浜市出身。早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。1990年「幸福な遊戯」で第9回海燕新人文学賞を受賞、1996年に『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞を受賞。2005年『対岸の彼女』で第132回直木三十五賞を受賞。2007年『八日目の蝉』で第2回中央公論文芸賞。2011年『ツリーハウス』で第22回伊藤整文学賞受賞。2012年『紙の月』で第25回柴田錬三郎賞受賞、『かなたの子』で第40回泉鏡花文学賞受賞。作品多数。
父の日にぜひ読んでみよう!
いかがでしたか?父の日は、母の日の影に隠れがちなイベントではありますが、この機会にご紹介した本で、お父さんについていろいろ思いを馳せてみるというのもよいのではないでしょうか。