「走るのが苦手…」「運動会まで時間がない!」「改善できるところがあれば改善して少しでも足が速くなりたい!」
そんな小学生とその保護者の声に応えるべく行われたのが今回の特別企画。
2025年10月に行われた滋賀国民スポーツ大会の成年3000m障害で、見事優勝を果たしたばかりの現役陸上選手・楠康成選手が、走るのが苦手という小学生の男の子に、走り方のレッスンをしてくれました。今回の練習時間はたった40分間!足が遅い子はどこまで変われるのでしょうか?
目次
現役陸上選手で指導者!楠康成選手ってどんな人?
「父がマラソン選手で、母は400mや800mを走っていた陸上一家なんです」と楠さん。
父が地元・茨城県で立ち上げた『阿見アスリートクラブ』で、5歳のころ兄の練習について行ったのがきっかけでした。
小学生のころはサッカーもやっていた楠さん。けれど試合に負けても、悪かったところをチームですぐに修正することができないもどかしさがあったと言います。
「陸上は、自分が頑張った分だけちゃんと結果が返ってくる。負けても“自分の責任”、勝ったら“自分の力”。そこが気持ちよかったですね。」
小6のとき、県大会で2位。中1で初めてライバルに勝ち、県優勝。
「そのときに“あ、自分、いけるかも”と思えたんです。明確な目標ができて、そこから一気に陸上が楽しくなりました。」
現在は、日本唯一の、陸上競技中距離を盛り上げるプロチーム『阿見AC SHARKS(AMIAC SHARKS TOKYO)』にて、自身がプロアスリートとして活躍するのはもちろん、さらに今後シーンを盛り上げるために、子どもたちや一般ランナーの育成をはじめとする様々な活動に取り組んでいます。
「速さ」は“仕組み”でつくる
明確な目標を持ち続け、数々の課題をクリアすることで記録を更新し続けてきた楠選手曰く、速く走るためには「効率よく走る」ことが大切。
「力まかせに頑張っても速くはならないんです。大事なのは“体をどう動かすか”。」
楠さんが教えてくれた“速さの3つの土台”は次の通りです。
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- 姿勢を整える
「胸・おへそ・腰、この3点を一直線にして体の“軸”を作ります。どこかが前に出たり丸まったりすると、筋肉が伸び縮みできなくなって、力が伝わりません」
- 姿勢を整える
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- 股関節を大きく動かす
「子どもは前に進もうとして足で地面を強く蹴りがち。でも大事なのは“股関節を速く動かす”こと。地面を軽く押してももが素早く上がると、自然にストライドが伸びます」
- 股関節を大きく動かす
- 足の接地時間を短くする
「速く走る子は、足が地面に触れてる時間が短い。高くジャンプするより、“弾むように離れる”ほうがスピードが出ます」
たった40分でフォームが変わる!
ということで、実際に走ることが苦手という小学生のお子さんと、レッスン開始です。最初に、約100mの距離を走ってフォームを確認。記録は【20秒35】。楠選手曰く、前に行きたいあまりに歩幅が広くなりすぎ、ピッチが遅くなってしまうのが問題とのこと。
「正しい姿勢を作るなど、少しのドリルで、20秒は切れます!頑張ろう!」
まずは筋肉がきちんと動くようにストレッチをして体を整えてからスタートです。
1. 股関節周りのウォーミングアップ
股関節を大きく動かすために、股関節まわりのウォーミングアップ。まず片方の太ももを前に高く上げ、その後、大きく後ろにまっすぐ伸ばし、同じ方の手を下につくまで伸ばします。左右繰り返しましょう。
2. 正しく腕を振る
腕を大きくまっすぐに振る練習。肩に力が入りすぎてうまく腕が振れない場合は、手のひらを上に向け、小指と薬指だけを握るようにすると、リラックスして腕が振れます。
3.ハードルを使って腿を高く上げる
次に等間隔に置いたハードルを使い、足をつかないといけない場所を決め、リズムよく腿を高く上げる練習です。足元を見がちですが、しっかり顎を引いて胸を張り、前を見ましょう。
4.リバウンドジャンプ&ハードルジャンプ
足の接地時間を短くするために、その場でジャンプをします。大事なのは、なるべく足首を動かさずに飛ぶこと。足首が動いてつま先だけの着地になると、ふらついてしまい、しっかりと地面を捕らえることができません。また、飛ぶタイミングにあわせて両腕を上げることも大切。
その場でのジャンプが終わったら、ハードルを使って同様に今度は前にリズムよく飛ぶ練習をします。この時もしっかり顎を引いて前を見ます。
5.スタート
クラウチングスタートの場合、地面を強く蹴る練習を。膝を後方に下げるのではなく、お尻をひいてから飛び出すイメージです。
40分のレッスンで速くなれた?結果は……!
いよいよ最後に再計測!記録は【19秒70】!見事目標だった20秒を切ることに成功しました。
本人も「走るのにこんなにたくさん考えることがあると思わなかったけど、一個一個やったら前に進めた!すごい!」と笑顔。
楠選手も「いい走りでした。特に姿勢と股関節がしっかり使えるようになってた。今日のポイントを継続すれば、もっと速くなりますよ」と太鼓判を押しました。
陸上の良さは「誰でも、昨日の自分を超えられる」
「陸上のいいところは、誰でも“前に進める”ことです。0.1秒でも、0.01秒でも、昨日より速くなったら、それだけでうれしい。オリンピック選手でも小学生でも、そこは一緒なんですよ。」
勝ち負けだけじゃない、“自己ベスト”という喜び。楠さんは「走ることで、努力が形になる感覚を味わってほしい」と言います。
さらに、本番前で緊張してうまく力が発揮できない子どもたちにメッセージも。
「本番前に緊張するのは悪いことじゃないんです。むしろ体が戦う準備をしてる証拠。いけないのは、焦ることでいつもやってきたことを忘れちゃうこと。」
楠さんがすすめるのは、“意識することを一つ決める”こと。
「姿勢でも、腕でも、接地でもいい。『これだけはやろう』を頭に置いておけば大丈夫です」
まとめ――努力次第で昨日の自分よりも“速く”
今回のレッスンでは走るのが苦手な小学生が、40分のレッスンで見事タイムアップ!
「今回やったトレーニングをしっかり続ければ、誰でも記録を伸ばすことができます。昨日の自分より、ほんの少しでも前へ。それを楽しんでほしいですね。」
<楠康成選手 プロフィール>
1993年、茨城県阿見町出まれ。『SHARKS』キャプテン。株式会社SHARKS代表取締役社長。
阿見AC創設時メンバー。高校まで阿見アスリートクラブで育つ。東洋大学付属牛久高校卒業後、小森コーポレーションを経て、阿見ACトップ選手に。2017年拠点を単身アメリカに移し、ロンドン五輪1500m銀メダリストのレオ・マンザーノ選手と共に指導者であるライアンコーチに師事。2018年帰国後、阿見ACに加入。1500mで日本選手権準優勝の実績をもち、2019年シーズンより3000mSCに挑戦。2戦目の2000mSCにて日本最高記録を更新。SHARKSを発足した2020年日本陸上競技選手権大会3000mSCで準優勝、当時日本歴代10位の記録を出す。日本選手権優勝、東京五輪標準記録突破を目指す。2021年12月より株式会社SHARKS代表取締役社長。