2020年の教育改革で思考力などのキーワードが注目される中、子ども時代に教養を身につけることの重要性について語る、小学館の通信教育『まなびwith』の国語教材の作問者、佐藤友樹先生。
前回の記事はこちら>>目まぐるしい今だからこそ身に着けたい、現代の子どもに必要な【教養】とは?
前回の記事で「教養とはその人に蓄積されている言葉(=知識)であり、語彙力である」と述べた佐藤先生に、今回は「語彙力の身につけ方」について聞いた。
目次
語彙力は家庭環境に直結する。
―幼い頃から語彙力を増やしていくためにはどうしたら良いのでしょうか。
佐藤先生:図書館を利用するのが一番手頃でしょう。日本の漫画はかなり質が高いので、学習性の高い漫画は、どんどん読んでおくといいでしょうね。
低学年でも漫画で描かれた歴史や伝記などは読むことができますから、とても有益だと思います。文字だけの本から学び取るには、それなりの成長が必要ですから、漫画は早い段階で積極的に利用していいと思います。子供も嫌がりませんし、知識(語彙力)も身につきます。
幼児には絵本をたくさん読ませるといいですね。絵本の読みきかせから語彙力がつきますよ。
また、芥川龍之介の児童から読める作品(『蜘蛛の糸』や『杜子春』など)は、話も面白くて、低学年から読んでほしいいと思っています。『蜘蛛の糸』は、冒頭にお釈迦様がでてくるので、書き方も敬語です。読んでいるうちに、敬語なんかも覚えられますし、なにより語彙力のある文章ですから。
―とにかく読み物に触れる、ということですね。
佐藤先生:そうです。それから、家庭環境に「教養」があれば、日常的な中で子供はそれを身につけていきます。親の語彙力が子供の語彙力に直結するので、日常的な会話の中で意識的に教えたい言葉を使ってみるといいですね。
私の祖母は、叱るときに、よくことわざを使いました。「のどもとすぎれば熱さを忘れる」とか、「急いては事を仕損じる」とか、「覆水盆に返らず」とか。ことわざで注意されると、聞いてるほうも面白いんです。ことわざは「知恵(考え方)」なのでたくさん覚えると頭よくなるんですよ。ものの見方や考え方を覚えるんですから。
―はじめは親が環境を用意してあげるとしても、子どもがいつか自発的に知識を習得していきたいと思うようになるためには、親はどうしたら良いのでしょうか。
佐藤先生:子どもは、楽しいことならどんどんやりますよね。ですから、まず親が、子どもの世界を楽しむことです。
絵本をいっぱい読んでみてください。学習漫画を読んでみてください。知育玩具を遊んでみてください。買って与えるだけでなく、ぜひ一緒に楽しんでみてください。
きっと子どもの世界のレベルの高さに驚きますから。そうやって親が子どもの世界を遊んで面白がれば、自然と子どもはまねをします。
―なるほど。先生自身は、子どもたちに対してどのような想いで「小学館の通信教育まなびwith」の作問をしていますか?
佐藤先生:私は、この教材を「知的財産」への入口であり通路となるようなものしたいと考えているんです。
人類の歴史はちっぽけなものではありません。生まれながらにして、私たちにはたくさんの「知的財産」があります。科学の成果や、すぐれた芸術作品はもちろん、幸福へ導く考え方や生き方のお手本となる偉人の存在など、受け取ろうとすればいくらでもその財産を受け取ることができるということを、教材を通して子どもたちに知ってほしいと思いますね。
「語彙力」と「思考力」、「表現力」を相関的に鍛えれば、より教養のある人間になる。
―「小学館の通信教育まなびwith」の作問の際、学習内容の点から特に意識しているポイントは何でしょうか。
佐藤先生:意図的に語彙力を増やすような内容にしているので真剣に取り組めばワンランク上の語彙力を身につけられますね。
読解問題では内容の読み取りの他にも自分で考えたり、伝記などで偉人の優れた考えを学ぶための問題もあります。考え方を知り、自分で考えることで思考力が身につきます。
また、作文問題では、得た「語彙力」と「思考力」を使い、文章を組み立てることで「表現力」が育つように作問しています。さらに詩歌の音読を取り入れることで、一流の表現に触れ、言葉の使い方の工夫などもたくさん学べます。
『まなびwith』国語教材の特長
1、語彙力が身につく
- 言葉の使い方や自然の生物、社会の仕組み、古典や詩歌など、幅広い知識が学べるような内容の読解問題。
- ことわざ・慣用句・熟語のクイズやクロスワード・パズルを用意。
- 意味だけでなく使い方がわかるような短文作りなどの発展問題。
2、思考力が身につく
- 内容を読み取るだけでなく、自分の頭を使って考える問題。
- 伝記作品を数多く使って、すぐれた人物の「考え方」を学ぶための問題も。
- 自分の考えを書いて自分の考えをまとめる練習ができる作文問題。
3、表現力が身につく
- 作文問題は「語彙力」と「思考力」を育てながら「表現力」も育つように設計。
- テキストで習得した言葉や考え方を存分に使えるボリューム。
- 「型」をまねるところから始めるので、作文を書くのが初めてでも無理なく取り組める。
- 詩歌の音読で一流の作品に触れることで表現力がランクアップ。
学校とは別に、制限を設けずに自分に即した学びのカリキュラムを持つべき。
―ちなみに『まなびwith』は教科書準拠ではありませんが、学校教育と別のカリキュラムに取り組む利点とはなんでしょうか。
佐藤先生:わたしは、学習に「制限」を設けてはいけないと思っています。将棋の世界に天才少年が現れましたけど、それは学びに「制限」をもうけていないからです。
子どもの能力は千差万別、多種多様なので、どの方面に才能があるのかは、にわかにわかるものではありませんが、学校教育の固定的なカリキュラムとは別に、もう一つ「自分の能力に即した学びのカリキュラム」を持つことは必要だと思います。通信教育などは、それぞれの能力に応じて、飛び級もできますし。
逆にできない子の場合でも、「できない」のは、与えられている問題が現時点の能力と合わないだけの話なので、「できる」ところまで戻して、始めなおせばほとんどうまくいきます。
できない子であればできるところから学ぶ、できる子であればもっと能力をあげることができる場所を用意する。学校とは別のカリキュラムで教育の場所があるということは大切なことだと思います。そういう意味で、学びの時期に自由がきくところは、通信教材の大きな利点と言えますね。
佐藤先生から、マナビコをご覧の皆さんへ。
佐藤先生:福沢諭吉の本に出てくる有名な言葉「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」というのは、人間は本来平等であるはず、という前提を語っているものです。
この言葉のあとで彼は、でも実際に人間は平等ではなく、世の中の人には賢人もいればそうでない人もいる、じゃあ、その違いはどうしてできるのか、と問い続けます。そして、それは「学ぶか学ばないか」ですよ、と力説する。この話が書かれた本のタイトルは、もちろん「学問のすゝめ」ですね。
この本が歴史に名を遺す名著と言われているのは、そこに大切なメッセージが書かれているからです。
私は、「まなびwith」を通して子どもたちに有意義で楽しい「学び」の機会を提供したいという気持ちで教材制作をしています。ひとりでも多くの子どもたちが、それを肌で実感できたらいいなと思います。