—(vol.01後編) 基礎の次に必要なのは、応用ではなく「高度な基礎」—-
2020年の大学入試変革によってより難解な問題に挑むことを余儀なくされる子どもたち。その壁を乗り越えるには、予習中心の学習スタイルを意識すると共に、もうひとつ有効な学習法があるという。
より難解な問題を解くキーとなるのは、意外にも「基礎」?
「有効な勉強法は、きわめて不思議で皮肉なことかもしれませんが、今までやってきたことを徹底してやることで、より基礎を固めるということです。
野球の練習に例えて言うと、高校野球のレベルをプロ野球のレベルに上げるためには、レベルの高い練習をするのではなくて、より基礎的で基本的なことを高度に練習します。すると応用的な状況があっても瞬時に自分で動けるようになるのです」
基礎力が大切だということは常々言われているが、そもそもその基礎に対する「誤解」があると隂山氏は指摘する。
「基礎は簡単で、応用が難しいという学習における認識は間違っています。僕は高度な基礎ということをずっと言い続けていて、基礎の次に必要なのは高度な基礎なのです。」
高度な基礎とは、身に付いたことを瞬時に思い出す「完全習熟」
基礎とは、自身の血肉となって身に付いていることを指す。それに対して高度な基礎とは、身に付いていることを瞬時に思い出すことのできる能力。つまり完全習熟であると陰山氏は話す。
「計算に置き換えて表現すると、2×3は?と問われた時に1秒かけて6と答えるのと、0.1秒で6と答えるのは、ぜんぜん違うのです」
この高度な基礎がいかに重要なのか、痛感するきっかけとなったのは陰山氏が推奨する「隂山メソッド」だという。
隂山氏が提唱する「隂山メソッド」に“百ます計算”がある。縦10個、横10個の数字が並び、10×10のますに縦横のそれぞれの数字を足す、引く、かける、の計算を行い、ますを埋めていくものだが、この“百ます計算”は単に計算能力だけを高めるものではない。
「基礎をやっても基礎しかできないという間違った指摘がありますが、“百ます計算”をずっとやって、“百ます計算”だけ伸びました、という子どもはいません。それどころか、“百ます計算”をとことんやったら文章問題が解ける可能性がさらに広がってくるのです。実際にテストを行ってデータを取ってみると、一番伸びているのは基礎・基本ではなくて応用力です」
===アンケート===
●あなたは大学入試に備えて、ご自身のお子さんに最も身につけて欲しいと思う力は何ですか?
基礎力が大切だと回答した人は10%以下。読解色、応用力などに票が集まった。(ドラゼミ調べ 対象:30~40代・子どものいる男女300名)
暗記したものを単に思い出すだけでは、通用しない
この結果には、隂山氏も驚いたという。鍵となったのは、瞬時の思い出し能力、すなわち高度な基礎だった。
「今までの日本の教育は、テストを前提とした【単純思い出し能力】を重視していたとも言えます。暗記したものを単に思い出すだけ。でもこれからは、瞬時に思い出した複数の事柄をまとめる必要が出てきます」
テストが長文になれば、問題に関わる情報がより多くなる。長文を読解するために、たくさんの事柄を瞬時に思い出し、整理する必要がある。限られた時間の中で問題を解くには、より早く、正確に思い出す高度な基礎が必須となるのだ。
「いくつかのことを同時に思い出して、比べて、合わせる力。頭の中に置いた内容から一定の理屈や考え方、事実を抽出する力。これらの力が、これからは強く求められるでしょう。」
大学の入試が急に変わっても、「さすがに小学校の環境は追い付いて行けず、急には変わらないのでは?」という当初の問いに、隂山氏は「いや、既に変わってきているし、これからもかなり変わっていくと思います」ときっぱりと答える。
そのような変化に対して、家庭でできることはあるのだろうか。我々保護者が、子どもたちにしてやれることは何なのだろうか。次回以降はそれも併せて分析していく。
(Vol. 2)へ続く
Vol.02 2020年大学受験大変革により、家庭のあり方が問われる時代に
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Vol.01「学習」は、こう変わる! ~2020年大学受験大変革に備える学習法とは(前編)
<<陰山英男>>立命館小学校校長顧問、立命館大学教育開発推進機構教授。安倍内閣の諮問機関「教育再生会議」委員を歴任。